無限の現在を歌えば、未来なんか、もういらない
ちょうど一〇〇年前のフィガロ紙一面、世界の美意識のためにマリネッティが宣言文を掲載し、未来を信じた世紀の始まりを告げた。一九〇九年、この未来派宣言は人間の集合的有機体を機械状のものとするプロセスを速やかにひらいたのである。
この生成する機械はグローバルなウェブの連鎖にともない終わりを迎え、債券と経済的信用という経済の未来化に基づいた金融システムの崩壊により転覆された。約束はついえて、ポスト未来の時代がはじまった。
ポスト未来派のマニフェスト
一 危険な愛、尽きることのない甘いエネルギーの、日々の創造を詩おう。
二 アイロニー、やさしさ、叛乱。これがわたしたちの詩の本質。
三 イデオロギーと広告が称揚したのは、人間の生産力と神経エネルギーを永久に利益へ戦争へと動員することだった。わたしたちは優しさ、眠り、エクスタシー、つつましいニーズと感性の歓びとを謳おう。
四 世界の煌めきは新たな美、オートノミーの美によって豊かになることを宣言する。だれも画一的なペースを強いられることのない、それぞれのリズム。自動車はもの珍しさを失い、もはや期待された役割を果たすこともできない。速度はスローダウンしたのだ。車は都市交通のなかで身動きのとれない亀のように機動性を失った。ただ遅くあるのが速さだ。
五 人々の詩をうたおう。お互いのことを慮り。そして世界を抱きしめるために。
六 詩はおおらかに気前よく注ぎ込んで集合的知性をふくらませて、賃労働の時間を減らす。
七 ただオートノミーにのみ、美は存在する。知性をもたない作品は名作にはなれない。詩は空無の深淵にかける橋であり、多様なる創造力と自由なる特異性の共有をつくり出す。
八 わたしたちはいま世紀の突端にいる。ふりかえって軍事的攻撃性と国家主義の無知の暴力と恐怖の深淵を思い出さなければ、いつでもそれは甦りかねない。あまりにも長く画一的な宗教の時代を過ごしてきたのだった。遍き永遠の速度はすでにわたしたちの背後、インターネットの背後にある。前乗りのシンコペーションを忘れて、自ら特異なリズムをつかめばいい。
九 戦争の言葉を語る者たちを笑おう。競争への狂信、虐殺を煽るひげを蓄えた神々の熱狂。テロルの狂信を、フェミニンな武装解除で包んであげよう。
一〇 芸術を、生を変革する力としよう。大衆的コミュニケーション[マスコミ]と詩との区別をなくし、メディアの力を商人から取りもどして詩人と賢者へと返す。
一一 群衆の詩をうたおう。ついに賃労働への隷属から解放しようと、搾取に対して連帯を謳い叛乱する者たちの詩。知と発明の無限のネットワーク、物質の重みから解放してくれる非物質的なテクノロジーのうたを。地に足をつけて蜂起するコニタリアートの詩。無限の現在を歌えば、未来なんか、もういらない。
──二〇〇九年二月二〇日、ローマ
フランコ ベラルディ(ビフォ)『プレカリアートの詩』
河出書房新社 2009年
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